Balthazarと再会 – インタビュー

Balthazar in Japan – Interview Main Image

あるバンドが成長していく過程を見守る—著者が音楽を愛する理由のひとつである。 新しいアルバムが発表されると、前回会った時からどんなことをしていたのかがわかり、旧友と久しぶりに近況を報告し合っているような気分になる。
 Tokyo Indieがベルギー出身のバンドBalthazarと初めて会ったのは約1年前。ちょうどセカンドアルバムRatsのリリース直前だった。それから飛ぶように12ヶ月が過ぎ、六本木のベルギービールウィークエンドで計3ステージのライブに登場するため、Balthazarが日本に初上陸した。ビールウィークエンドでの最後のパフォーマンス前に著者はバックステージにて彼らと対面し、冷えきったヴェデットのボトルを片手に、前回のインタビュー以降の活動について尋ねた。

 彼らのライブはその前の週の土曜日に観ていた。会場には勢いのある観客が集まっていたが、音楽だけでなくビールにも夢中だったようだ。
「初日は少し変だった」
と語るのは、リードシンガー兼ギターのJinteだ。彼の控えめな笑いから、当日の雰囲気がライブに最適なものではなかったことがわかるが、続けてこう言った。
「でも2日目は熱狂的だった!」
 するとヴァイオリンとキーボード担当のPatriciaが説明する。
「日曜日だったから、みんな飲み始めるのが早かったのよ。すごく良かった。もしかしたら今までで一番クレイジーな観客だったかもしれない」

 過去1年で数え切れないほどのライブをしてきたバンドから、こんな発言を聞くとは思わなかった。 Local Nativesをサポートしたイギリスツアー、そして自分たちがヘッドライナーを務めたツアー、さらにはヨーロッパ各地の数々のフェスティバルに参加し、メリーゴーランドのように止まることなくあちこちを飛び回っていたのだ。
「朝、ツアーバスから降りるとそこは歴史の中心地で、左手にはフランス王の宮殿、右手には古い大聖堂が見える。ほとんどの日が、バカンスみたいだった」
 もうひとりのシンガー兼ギターリストのMaartenが教えてくれた。
 ツアー中の最高&最悪の出来事を聞くと、どうやらそれは同じ日に起こったらしい。
「しばらく前、たぶん夏前のフェスティバルだったと思う。はっきりは思い出せないけど。会場に到着すると…」
Patriciaが語り始める。多忙スケジュールのせいで記憶が曖昧になっている。
「雨がひどく降っていて、ブーツを買いにいったの。自由に歩き回る事もできないし、最悪な出来事だと思った。でも、結局はこの夏の最高の思い出になった。天気はひどくても観客は誰も気にしないで、テンションが高かった」。
 休むことなく続く多忙な日々に疲れないのか、と聞くと、メンバーはクスっと笑い、
「11月まではこの調子で続けて、そのあとはちょっと休もうかなと思ってる。休むというよりは、ライフスタイルを変える感じかな」
と、Maarten。

 “ライフスタイルを変える”。つまりスタジオに戻り、高い評価を受けたセカンドアルバムの続作に取りかかるのだろう。前回Tokyo Indieが会った時は、まだRatsの製作途中だった。Jinteは“映画的(cinematic)”なアルバムにしたいと話していたが、その目標は達成されたのだろうか? Jinteはニヤッと笑い、
「それ言ったの僕?」
と恥ずかしそうに答える。
「うん、まあ、僕らがあの時にできる限りのベストを尽くしたアルバムになったと思う」
とJinteは話す。
「全曲ポップソングなんだ」
とMaartenが横から付け足す。
「でももしかしたらより視覚的な雰囲気を持つアルバムかもしれない」。
 話を進めるうちに、デビューアルバムのApplauseに比べると、セカンドアルバムのリリースは、Patriciaが定義するように特異性が薄いとメンバー自体が思っていることがわかった。著者が目にしたとあるRatsのレビューに、“おとなしい”と評価するものがあったが、その理由はなぜかと聞くと、
「もちろんデビューアルバムに比べると挑戦的ではない。でもおとなしいとは思わないな。むしろ、より陰鬱で、露骨ではないからこそ危険性を孕んでいる」
とJinteが答えた。
 日本での経験について尋ねると、お寺をまわったり、代々木公園で迷子になったエピソードなどを話してくれた。その話しぶりから、いつか戻ってきたいことが伝わってくる。
「とってもいい体験をした。今回は日本入門編かな」
とJinte。今回のライブは理想のシチュエーションではなかったものの、その確固たるパフォーマンスから新たなファンを獲得したのは間違いない。
「いつか大規模なツアーで日本をまわれればと思っているよ」
とJinteは話してくれた。その時が今から待ち遠しい。

執筆:Mark Birtles

翻訳:永田 衣緒菜

2013年10月8日