Maya Jane Coles – アルバムプレビュー

Maya Jane Coles – Album preview Main Image

英国人と日本人を両親に持つ、25歳の音楽プロデューサー兼DJのMaya Jane ColesをTokyo Indieで初めて紹介したのは、昨年、DJ Kicks mixのリリースとWombでのライブ直前のことだった。世界での評判が高まり続けるMayaは、6月に開催された千葉のBig Beach Festivalに続いて、7月27日のフジロック出演のために本年度2回目の来日を予定している。さらに、待望のデビューアルバム’Comfort’ が7月にリリース予定だ。日本でのステージに先立ち、Tokyo Indieは彼女のデビューアルバムを特別に入手することができた。

このアルバムを聴いて最初に驚くのは、Maya自身がアルバム製作のほとんどすべてを手がけていること。Mayaは、作曲、プロデュース、ミキシング、そしてその他すべてをディレクションすることで知られているが、今作はさらにその一歩先を進んでいる。楽器ひとつひとつを演奏し、数曲ではヴォーカルとして歌声を披露、アルバムジャケットのデザインも担当した。唯一他人の手を借りたのはヴォーカルで、ゲストヴォーカルとしてTrickyやMiss Kittin、Hercules and Love AffairのKim Ann Foxmanらが参加している。

オープニング曲である‘Comfort’は、まさにアルバムのタイトルがこの曲から取られたように、アルバム全体の方向性を伝える。Portishead風のヴォーカルが響く中、まるでクラブナイトと日の入りの間に浮かぶぼんやりとした早朝の空間へ連れて行かれるようだ。この感覚は、つぶやくような声と鳥のさえずりと共に屋外で深呼吸させてくれるようなナンバー、‘Easier to Hide’まで続き、そして我々はまたMayaのダンスフロアーでの実績を披露するような典型的なリズムが刻まれるナンバーで、クラブの集まる霞んだ世界へと我々は引き戻されるのだ。自信をつけ大胆さを増したMayaのヴォーカルにも注目して欲しい。The XXと明らかに比較されるようなムーディーで官能的なその歌声は、囁くように深夜のメランコリーな愛物語を紡いでいく。

Mayaは自分の作品を引き立たせるためのゲストとして、ベテランとフレッシュな新人アーティストを慎重に選んだ。‘Blame’では、悲嘆なギターのリフ(ここでもThe XXのような演奏法がみられる)とNadine Shahのハスキーな声が共鳴する。Nadineは、レーベルR&SのサブレーベルであるApolloに所属する新人だ。巧妙で陰鬱な歌詞は、‘Wait For You’で登場する。この曲は、悩ましいほどの激しさとともに鼓動する不気味なローファイナンバーだ。

しかしComfort’は、全体を通して陰鬱であるというわけではない。曲の雰囲気にまさにふさわしいタイトルがつけられた‘Burning Bright’と‘Take a Ride’は、ライブにぴったりな真の高揚感に満ちている。Kim Ann FoxmanとMiss Kittenがそれぞれの楽曲において、一瞬にして没頭してしまうような歌声を披露する。

本アルバムからリードシングルとしてリリースされるのは‘Everything’である。ディープなハウスのグルーブに、スウェーデン出身の女性ヴォーカルKarin ParkがMayaと共同作曲を担当。凍りのように冷たい歌声が印象的なヴォーカルも担当している。Karinのスタイルには、The KnifeのKarin Dreijer Andersonを呼び起こすものがある。それもそのはず、KarinのソロアルバムはThe KnifeのもうひとりのメンバーChristoph Bergenによって一部プロデュースされているのだ。‘Everything’のミュージックビデオでは、気弱な人間ではなく鳥類愛好家ともいえる人物が不気味に描写される。ビデオを監督したThomas Knightは、アルバム内のダウンテンポなナンバー‘When I’m In Love’で美しいソウルヴォーカルとして登場する。

本作は、まさにダンスミュージックのプロデューサーによる作品だが、決して全曲が「ダンスミュージック」のジャンルに分類されるわけではない。本作はエレクトロニカというジャンルの内外に渡るMayaの幅広い音楽を反映し、Mayaの音のパレット上のあらゆる色を見せ、悲しみに満ちた心の痛みと深い思索を表現する。DJブースから一歩離れたMayaがヴォーカルらや、ポップな感性を取り入れながら、自信を持って自由に創作したのが本作である。ハウス、ヒップホップ、ダブ、インディーズ、テクノというジャンルへその領域を広げる限り、Maya Jane Colesによる上級レベルのエレクトロニック王国は、衰える兆しを見せない。

ComfortはMayaのレーベルI/AM/MEより7月22日に発売される。詳細はMaya Jane ColesのHPにて

またMaya Jane Colesは、7月26日〜28日のFuji Rock Festival にも出演予定だ。

3日通し券:¥42,800(税込)
1日券(各日限定10,000枚):¥ 17,800 (税込)

イベントに関する情報や、チケットの購入方法の詳細はFuji Rock FestivalオフィシャルHPにて

執筆:Mark Birtles

翻訳:永田 衣緒菜

2013年6月24日