Simian Mobile Disco – インタビュー

Simian Mobile Disco back with a new album – Interview Main Image

6月の日差しを照り返す腕の時計に手のひらで傘を作り、時間をチェックした。バーベキューの匂いが漂って来るプールサイドで、我らがフォトグラファーJimは雲一つない空を背景にダメ押しのテストショットを撮っている。僕たちはAgeHaで行われるHostess Club Weekenderのバックステージにいた。その日ステージに上るSimian Mobile DiscoのJames FordとJas Shawに話をきくチャンスをうかがうためだ。ウッドデッキをウロウロしている僕に、Hostessのスタッフが心配そうな面持ちで歩み寄ってきた。「本当に申し訳ないんですけど、深刻な機材トラブルが発生してまして。今夜、また後でインタビューしていただく訳にはいかないでしょうか?」との事だった。

Simian Mobile Discoはニューアルバム『Whorl』を演奏する為に来日しているのだ。同アルバムを携えてのライブはバルセロナのSonar Festivalで初お披露目されたばかりだ。9月8日にAnti Recordsより発売されるこのアルバムは、全てヴィンテージのアナログ機器を用いて制作された、これまでの彼らとは違った方向性を示すものである。その事から、僕たちはこの機材トラブルがどれだけ深刻なものか予想がついた。それどころか、彼らが今日演奏出来るかどうかすら危ういだろう。僕たちは仕方なくメインエリアに移動する事にした。SMDの出演時間が刻々と迫り、僕たちは主催者側からの出演中止の悪報を覚悟した。しかしながら、出演予定時刻には彼らのシンセサイザーがステージに運び込まれ、予定通り彼らの演奏が行われる様子に僕たちは胸をなで下ろす事になる。幸せな事に、照明が下がりパフォーマンスが始まると、もう観客はあと少しで彼らのパフォーマンスを見られなくなる所だったことなど知る由もなかった。

「さっきはごめんよ」演奏のあと、やっと彼らにお目にかかれた僕たちにJasが声をかけてくれた。「1台のシンセを全部設定し直さなきゃいけなかったもんで」彼もJamesも、演奏までのとんだ災難によるものか、まだアドレナリンが出続けているようだった。彼らは、なぜこのように不安定になり得るセットアップでライブに臨むに至ったかを、まるで少年のように畳み掛けた。「僕らはレコーディング方法を変えたかったんだ。だからコンピューターを捨てる事にしたんだよ」とJames。「たぶん、自分たちを不利な状況に追い込んで、安全装置を外したかったんだ」とJesが続けた。新しいライブでのツールを、かつてのサウンドパレットからスーツケース程の大きさのモジュラーシンセのラック2台に制限する事で、より実践的で、巧妙な操作をリアルタイムで行えるようになったのだ。別の言い方をすれば、JamesとJasは音楽的に自らを解き放つために、あえてテクニカルな面で自らを制約したというわけだ。「僕らはキックドラムを作るのに、僕らのでっかいスタジオで気づいたら4時間も費やしてたりするんだ」とJas。「ところが突然、これだよ。上手くいく時は上手くいくんだ。僕らならできるし、前に進むまでだよ」。

4月、Simian Mobile Discoは『Whorl』をレコーディングするため、2台のモジュラーシンセ、2台のシーケンサー、そしてミキサーだけを持って南カリフォルニアの砂漠へ長旅に出た。「1軒の家を使っていたよ。周りの岩の上にケーブルを張り巡らせて、砂漠を見渡しながら演奏したんだ。あれは最高だったな」Jasが、僕に息を飲むような一面まっさらな風景の写真を見せながら思い起こす。「でも、どれだけ寒くなるかは考えてなくてさ」Jamesが続ける。「夜になったらオシレーターが落ちちゃうから、何もかもやりづらかったよ」彼らがジャムとリハーサルを重ねた3日間の切り詰め生活は、PinoneertownのPappy&Harrietでのライブがソールドアウトするという結果で実を結んだ。そしてそのライブ演奏は後にアルバムに使われる事となり、すなわち会場にいた900人のファンは彼らのアルバム制作過程の目撃者となったのだ。

『Whorl』を演奏する上でのコンセプトはアナログ、本質的、といったものなのだそうだ。そしてそれが彼らの言う“正直なレコード”であり、正真正銘の“ライブ”ショーなのだ。「これまで僕らはラジオでプレイされたり、クラブでヒットしたりするような、みんなが望む音楽を作ってきた」とJasが説明する。「今回は先を読むことは止めたんだ。そしたら結果的にたくさんの人が、このアルバムが一番好きだって言ってくれた」

確かに、パフォーマンスとしての、そしてアルバムとしての『Whorl』は音楽の悪霊たちを払い、Simian Mobile Discoが今、彼らのキャリアにおいてより心地よいステージにあることをありありと語っているように見える。アナログ機器を使用するという事は先駆的、もしくは前例がないサウンドといったものからは遠く離れているとは言えるが、一方でこのことはJamesが我々のインタビューで2度語った次の言葉に最も要約されているのではないだろうか。“解放の”アルバム。『Whorl』はサウンド面ではほとんど映画的とも言える。そしてそれがSimian Mobil Discoの次の章を表しているのだとしたら、我々はその物語が姿を現してゆくのが楽しみで仕方がない。

スタジオアルバム『Whorl』は9月8日、Anti Recordsより発売。
詳細はこちらからチェック。

執筆:Mark Birtles

翻訳:城本早苗

2014年9月8日